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「その可能性はすでに考えた」 -井上真偽- 【奇跡を信じる探偵の、難解な推理バトル】ネタバレなしあらすじ&感想

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こんにちは、マサキです

 

今回ご紹介する小説は井上真偽さんの「その可能性はすでに考えた」

 

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2016年本格ミステリ大賞候補となったこの作品

文庫本でのページ数は384ページと少し短いのですが内容は難解で、かなり濃い作品となっています

 

なので今回は、なるべくわかりやすく本作を紹介していこうと思います!

 

この本のオススメ度 A

 

それではさっそくまいりましょう!

 

 

あらすじ

 

青髪にオッドアイの探偵、上苙丞(うえおろじょう)は、ある理由から、この世ならざる現象である「奇蹟」の存在を証明しようとしていた

 

そんな上苙と彼に多額の金を貸している中国人・フーリンの元に依頼人・渡良瀬莉世が訪れる

 

彼女は「10年前、私が人を殺したかもしれない」と語り始めた

 

彼女が語ったのは10年前の出来事、親と一緒に教団『アポリュトローシス』に入団した彼女は教団によって隔離された村に閉じ込められることとなる

 

村には33人の信者がともに暮らしていたが、莉世はその信者の中で仲良くなった青年・堂仁とともに村を抜け出す計画を立てていた

 

だが計画実行の日に〈禊〉と呼ばれる儀式が行われ、信者全員でお祈りを唱えていた拝殿で頭を伏せた信者の首を教祖が斬り回りはじめる

 

莉世の首が斬られる直前に堂仁が助け出したが、莉世は気を失い、目覚めたときには祠にたおれていた。

 

そして、その眼前には堂仁の生首と胴体が転がっていた。

 

彼女は薄れゆく意識の中で

 

「堂二の首を抱えながら、首を失った堂二が自分を抱えて祠まで運んだ」

 

という記憶にたどり着く

 

話し終えた莉世は上苙に、10年前の出来事を調べてほしいと依頼する

 

依頼を受けた上苙は調査をし、ある事実へとたどり着く

 

やがてフーリンのスマートフォンに、一本の電話がかかってきた。もちろん探偵からだった。その通話口から聞こえる嬉々とした声に、フーリンの不吉な予感はいやがうえにも高まる。

 

「喜べフーリン。ついに僕の探求が終わりを迎えたぞ。まずは僕のこの勝利宣言を聞け。この事件、謎は全て解けた――」

その危惧通りの結論に、フーリンは頭を抱えた。

 

「これは――奇蹟だ」

 

「その可能性はすでに考えた」p.84

 

 

だが、「この事件は奇蹟ではない」と反証する様々な人物が、あらゆる仮説を上苙丞(うえおろじょう)へとたたきつける

 

この首なし聖人伝説の如き事件の真相とは、果たして奇蹟なのか?

 

多重推理の本格ミステリ

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本作は『探偵が事件に巻き込まれて犯人を推理する』のではなく、『ある事件に対しての多重推理をすべて否定する』本格ミステリとなっています

 

 え?どういうこと?犯人を推理して事件を解決するんじゃないの?

 

と思ったあなた、そうなんです

 

ふつうは事件を起こせる犯人を推理するところを

「この現象は推理に推理を重ねても不可能だ」

と否定するのが本作の探偵・上苙丞(うえおろじょう)なのです!

 

探偵は顎を一撫すると、ゆっくりソファの背もたれに寄り掛かった。そして人差し指を唇に当て、どこか夢見るような眼差しを宙に向ける。

「……あらゆる可能性を」

「え?」

「人知の及ぶあらゆる可能性をすべて否定できれば、それはもう人知を超えた現象と言えませんか?」

「その可能性はすでに考えた」p.86

 

この斬新な発想が本作の面白いポイント!

 

そして全ての可能性を否定することなど不可能だと上苙丞に独自の仮説をもって、事件を説明しようとする刺客が4人登場します!

 

 3つの仮説と推理バトル

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 「こんなものは奇蹟ではない」と上苙丞を否定する宿敵たちが3つの仮説を武器に、上苙丞に挑みます

 

この3つの仮説はどれも現実ではあり得ないようなトリックをメインに立てられるのですが

 

この推理合戦は圧倒的に上苙丞が不利となっています

 

そう、この仮説はどんなにありえなくても可能性が1%でもあれば刺客の勝ち

そしてその仮説が起きる可能性を完全に否定しなければ上苙丞の負け

 

なのですが、このとんでもないトリックを完全否定する推理バトルが本当に面白い!

 

論理で仮説を否定するため、上苙丞の推理はかなり難解で僕は何回も読みかえして何とか理解しました笑

 

この仮説がどのくらいぶっ飛んでるのかというと、それぞれのタイトルが

  1. 炙り家畜踏み車
  2. 水車トレビュシェット・ピンホールショット
  3. 君の神様はどこにいる? 聖ウィニフレッドのクリーン発電

 

なんじゃこりゃ!となりますね笑

しかもこのタイトル、本作で実際にこのまんま出てくるのでまさにこの通りの仮説が論じられます

 

このトリックのすごさがわかるのは2番目のタイトル!

ほんとにピンホールショットしないと成立しないレベルの仮説をぶつけてきます笑

 

そして上苙丞がこれらを否定するときの決め台詞がめちゃくちゃかっこいい……

 

果たして上苙丞はどのように完全否定するのか?

興味がひかれるタイトルの内容と推理バトルは読んでからのお楽しみ!

 

 

 最後まで怒涛の展開

最後の刺客が上苙丞に突きつけるのは仮説ではなく、『ある事実』です

 

めちゃくちゃ難しい推理が繰り広げられて、途中からもう訳が分からなくなってきます笑

 

理解するのにすごいエネルギー使うのですがそれもまた楽しい!

 

そして怒涛の展開で今までの推理が一つにつながるのでまさに圧巻

 

何度も読み返してしまいます!

 

まとめ

ほんとに素晴らしい作品でした…

こんな本格ミステリもあるのかと新しい形の本格を見せてくれたので

ぜひオススメです!

 

今回は「その可能性はすでに考えた」 -井上真偽- を紹介させていただきました!

 

最後に上苙丞の決め台詞を紹介して終わりたいと思います!

 

それではみなさまよいミステリ小説ライフを!

 

「相変わらずの名調子でした、大門さん。それに話運びも迂遠過ぎて逆に面白い。まさか白秋だけでなく、岡本綺堂まで出してくるとは……。久々に当時の小説を読み返したくなりましたよ。ですが」

白手袋で青髪を搔き上げる。フーリンの視界の先で、翡翠もしくは煎り銀杏のごとき色の瞳が、金石のように変わらぬ不退転の気を放つ。

 

「その可能性はすでに考えた」

 

「その可能性はすでに考えた」p148